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J-オイルミルズがおいしさデザイン工房を開設

 J-オイルミルズは7月1日に組織を再編した中で、旧研究本部をフードデザインセンターへと組織変更するとともに、ソリューション事業部との連携を強めている。同社は第5期中期経営計画の柱に掲げる「おいしさデザイン企業」を目指すための活動拠点として、東京・八丁堀にキッチン・ベーカリー・オフィス機能を備えた複合型プレゼンテーション施設「おいしさデザイン工房」を7月9日に開所し、同13日にメディア向けの内覧会を開催した。
 おいしさデザイン工房は、従来、六本木を拠点に製菓・製パン向けのアプリケーション開発を行っていたテクニカルアドバイザリーセンターの機能を移転するとともに、聖路加本社にある顧客向けプレゼンテーション機能を兼ね備えた施設。家庭用の調理から、プロが使用する様々な環境を再現できる設備を整え、顧客とともに新しい気付きや発想に繋がる“きっかけ”が生まれる雰囲気作りを試みようというものだ。
 おいしさデザイン工房の施設コンセプトについて説明した渡辺健市執行役員フードデザインセンター長は「おいしさには例えば五味があるが、油はおいしさに影響するのかというと、油を入れた料理は何かおいしくなるように、油が必ず作用している。(業務用商品の)『美味得徳』も調理しておいしくなる、油が変化しておいしくなる、味に料理感を与えることを解明しながら作った油である。2つめに、実は香りはそのほとんどが脂溶性成分であり、香りは油の得意分野である。3つめに食感があるが、製菓・製パンにおける層を作ることも油でできるし、ショートニングという言葉も油からきており、脆い食感を出すことは油が作用している。当社はスターチも扱っているが、油メーカーから見たスターチは同じスターチでも違う。おいしい食品を作るときには、水と油が両方なくてはならず、乳化という状態もあるし、スターチを通して新しい食感を作ることも行っている。というように、味、香り、食感のいずれも、油メーカーなりにおいしさをデザインしていくことを考えている」という。
 また、誰が対象なのか、若い人なのか年配なのか、またオケージョンによってウォンツが異なる中で、あるべきおいしさを実現していかなければならない。「必要な食材、必要な調理工程、ベストな喫食タイミングに合致すればよいが、残念ながらほとんどの食品産業でなかなかそうはいかない。あるいは健康感を出すにはどうしたら良いかというようなこともある。中食や加工、外食チェーンや家庭用それぞれでニーズがたくさんある」というように、ニーズによって食材を置き換えたり、調理工程では大量/省力化を図ったり、経時変化への対応を図ることが開発に求められる。
 「本当においしいものって何だろうと考え、テクノロジーで一所懸命作っている。一方で、マイスターがいたりして、そこの繋ぎが本当にできているのかが課題としてある。あるいは何でおいしいのかを解明するサイエンスもある。ここを三位一体で全部一緒にやりたいと思っている。当然、それを顧客に向けてどう伝えていくかということをしていきたい」というのが、おいしさデザイン工房のコンセプトだ。おいしさを再現するテクノロジーやおいしさを解明するサイエンスを活用しながら、プロの技や伝統のようなアート感覚も醸成して、様々な付加価値機能を徹底的に追究して、新しいおいしさを社内外へと発信していきたいという狙いがある。近年のトレンドから様々な要望が高まる中、自社の製品はもちろん、場合によっては社外の技術も取り込み、組み合わせて、顧客にとって最適なソリューションを探していく。
 組織としてのフードデザインセンターは、素材や製品、技術の開発やおいしさ評価、そしてアプリケーション開発を担っている。それらのアート、サイエンス、テクノロジーを融合して顧客対応を図るための、いわば「おいしさデザイン」を進めるポータルサイトがおいしさデザイン工房だ。そのため、離れた拠点との会議が可能なテレビ会議システムも設置されており、「一緒に食べたり、一緒に評価するという位置づけにしている」という。
 同社が市場拡大に向けて注力しているオリーブオイルを例に挙げれば「いろいろなものにかけて食べる用途を提案しているが、日本人に帰化させたい。カツレツがトンカツになって日本食になったように、オリーブオイルも外来ではなく、日本固有のものになると良いなと思っている。そういうことをお客様、生活者と一緒に、共に創っていきたい」と渡辺氏は語った。

 おいしさデザイン工房はフロア面積が約760㎡(約230坪)あり、テストキッチンや製菓・製パンの各種設備、ミニラボ、試食室、プレゼンルームなどを備えている。
 デモンストレーションルーム(約49㎡)と一体化ができるプレゼンキッチン(約42㎡)は、様々な講習会が行えるようになっており、ドイツのMIWE社製のオーブン(上3段がパン用、下1段が製菓用)や、IH加熱器、フライヤー、ベルショウドーナツマシンなどを揃えている。パン、菓子、調理まですべてデモンストレーションができ、120インチのプロジェクターをメインに4台のモニターが設置され、映像は3台のカメラで全体風景から手元、ミキサーの中まで映せるようになっている。
 テストベーカリー(約120㎡)にはプレゼンルームとは異なるメーカー製のオーブンが設置されている。製菓・製パン分野では合わせて4台、いずれも異なるメーカーもオーブンを導入しており、様々なユーザーへの対応が意識されている。
 調理用のテストキッチン(約73㎡)では、ガスのように火力の強い中華料理にも対応できるように、加熱してすぐに300℃まで上がるIH中華料理器が導入されている。おいしさデザイン工房の入るビルは最新鋭の耐震構造となっており、ガスが通っていないためだ。また、CVS対応で真空冷却器も設置されている。スチームコンベクションオーブンなども含め、現代調理にきめ細かく対応した設備設計となっている。
 プレゼンルーム兼カフェテリア(約50㎡)を併設するフォトキッチンスタジオ(約62㎡)は、家庭での調理を再現できるキッチンとなっている。AGFの挽きたてコーヒーが飲めるコーヒーマシンも設置されている。プレゼンルームには80インチのモニターが設置されており、テストキッチンなどの映像を移すこともできる。
 その他、フリーアドレス制のオフィスルームがある。常駐スタッフは20名強だが、「(他の所属の社員が)いつ来ても良いようにしている。希望としては数十人がここにいて欲しいという思いもあるし、一方で、テレビ会議もでき、ここにいなくても双方向で臨場感を持てるという理想の環境でもある」という。また、災害時にはBCP拠点として機能する施設になる。
 内覧後には試食も行われ、「オリーブ&レモンフレーバーオイル」の風味が爽やかな冷製ブリ大根(カルパッチョ)や、「調理用パレッツ」を使用してジューシーさとコクを付与したハンバーグ、ベーカリー専用「エクストラバージンオリーブオイル」を使用しフルーティな風味に仕上げた焼き菓子ピッコロ・ケッソ、「プリメラン」と「エンハンスオイルR」でバター風味とコクを高めたチーズケーキが提供された。
 なお、おいしさデザイン工房の設備投資額は数億円程度としている。「お客様と共に創っていく
」活動拠点として、おいしさデザイン工房は顧客や市場との接点となるべく、様々な人々が交流して化学反応を起こす場所を目指していく考えだ。